DXに関する与太話

ここ2年ほどは、あまり社外の人と交流せず(正確には社内でもプロジェクトで積極的に関わる人以外とはそんなに交流せず)、ひたすらお客さん向けの仕事にフォーカスしてきた。その間に世間のトレンドも大きく変化したような気もするし、特に自分の価値観がかなり変化したような気がする。何気に社会人人生の大半は、いわゆる開発チーム側で、何かを作る側にいたため、いわゆるセールス組織というのにも所属して3年弱のペーペーである。「現場に答えがある」という、新卒で入社した会社の社長の、当時は色々あって完全に受け入れられなかった言葉の意味が身にしみる日々を過ごしてる。

最近はご時世もあいまって、DX(Developer eXperienceではなくDigital Transformationのほう)というキーワードに絡んだお仕事に関わることが多く、思う所が多くなったので一旦メモがてらぶちまけておく。自分が今頭の中にあることを一旦フラッシュしたいだけであり、何らかの示唆を求めてらっしゃる方はそっとブラウザの戻るボタンを押していただくとよいと思われる。

なお、一切の客観的な根拠を伴わない筆者の主観と空想を中心に勢いで雑多に書かれた雰囲気文章であり、所属する企業を代表する意見では一切ないことは念の為記載しておく。

筆者のバックグラウンドとここで書いてるビジネスの話は以下の通りである。

  • プラットフォーマーのセールスエンジニア
  • 過去の経歴からデータとかMLとかAIとかのキーワードの仕事をすることが多い
  • ビジネスの中心が実店舗である業界(デジタルだけで完結しない、リアルな人の動きが必要となる業界)

デジタルネイティブなところは変わらずどんどんやってくださいという感じです。

DXしたいって言ってるけど何をしたいか分からない問題

意味の大きな言葉は使いやすいが危険である。捉える人によって言葉から想像することが様々になる。DXはその象徴的な言葉のように個人的には感じている。DXという言葉を、企業がデジタルシフトするための標語として掲げるのは、まあ反対はしない。が、よくよく話を聞くとそもそも偉い人達同士で違うイメージを抱いていることがありずっこけることがある。企業として目指すDXとはなにか?優先度は?くらいは決まっているといいのではないかと思う。話が噛み合わなくてよくよく話を聞くと大抵以下4つのカテゴリに落ちていく印象である。以下の4つを部分的あるいは組み合わせながらDXという世界観を抱いているケースが多いように思う。

  1. 業務のIT化推進
  2. 働き方改革
  3. デジタルマーケティング
  4. よくあるAIやIoTなどの新しいっぽい技術でバーン

その他にもあるのかもしれないが、自分が関わる範囲では上記4つあたりをよく見聞きする。

「業務のIT化推進」はまあ従来からやっていたのでただラベリングを変えただけでは・・・とは思いつつ、昨今クラウドというワードの浸透に加えて、複数のクラウドの使い分けであるマルチクラウドや、オンプレミスとの連携であるハイブリッドクラウドなる言葉が出てきてもう大混乱!である。加えてベンダーロックインを回避すべし、という風潮が重なることで意思決定の変数が多すぎる状態になっていそうである。インフラレイヤーであれ、アプリレイヤーであれ、ベンダーロックインを回避しようとすればするほど、社内に業務プロセスを熟知し、技術的な知見を持った内製組織を作っていく必要があると思っていて、人材問題や組織論とバッティングし、コスト的には高くつくし、スピーディーな動きはしにくそうだな、と思う。大局的な経営判断が必要になる部分であろう。

働き方改革」は昨今の情勢と相まって、リモートワークの文脈で語られることが多い。これもツールを入れたから解決するわけではなく、結局、組織づくりやポリシー、リテラシーに落ちるので、あるツールを使ったら解決する話ではないようなぁと思う。最近はリモートワークの文脈でゼロトラストというキーワードでの検討が進んでいそうに思う。ID管理の話にセキュリティの機能的な話とガバナンス的な話が絡まりあった上に、上述したベンダーロックイン回避的な流れもあって、けっこう混乱の素になっているように思う。

「デジタルマーケティング」はマーケ系の会社が乗り遅れるな、このビッグウェーブに、ということで仕掛けている印象。デジタル上でのビジネス活動を行う上ではデジタルマーケティングが必須という切り口だと認識しているが、個人的には今のメインの守備範囲ではないので何か語れるほど知見があるわけではないが、昨今のSaaSブームによりシャドーIT的な部分が暗躍しやすいように思える。結局、基幹系のデータと連携しないと深いマーケティング活動に繋がりにくく、ITとビジネスの連携がないと、また別のサイロができてしまったぜ、になってしまいそうな気がする、というかなっている。

「新しいっぽい技術でバーン」は一時よりトーンダウンしてきた印象がある。良くも悪くもブームが落ち着いてきたのだろうか。ここに関しては、与太話は無限にできてしまうので、深入りする前にやめておく。

1-4についてやりたいかやりたくないかを聞くと、間違いなくやりたいしやるべきことという回答になるとは思うが、これをどのように進めるかは本当に難しいなと、外から支援する立場としては思う。どう整理して進めるべきか?という意見を求められることも時にはあるが、正直外部の人間には言い切れない部分は多々ある。もしかしたらコンサルと呼ばれる業種の方々はこの辺まで踏み込んでるのかもしれないが、DXを経営戦略として考えると一番のキモになる部分のため、可能な限り自社で考えないといけないのでは?と思っていたりする。本質的にはツールやサービスで解決することではないものが大半のため、自社での優先度や方向性なく相談をすると、ベンダーにカモられる構造がより深刻な気がする。まあ難しい。

プロジェクトの進め方とか勝ちパターンとか

2年前まではひたすら「機械学習やデータ系のプロジェクトは成果がでるかわからないので、可能な限り小さくプロジェクトをはじめましょう」と言っていた。技術的な観点で原理的にはたぶん今も間違っていないと思うが、ビジネス面も含めて見た時には必ずしも正解と言えないなぁと思うようになった。むしろ失敗?というか自然消滅することが多い印象がある。では、大風呂敷を広げてトップダウンですすめると良いかとういとそういう訳でもなさそう。難しい。

小さく始めると本当に一部署に閉じた形で小さく終わる。企業全体のDXみたいな大きな話につながって来ない。ボトムアップで一部署で起きたPoCからのムーブメントが会社を変えた、みたいなきれいなストーリーは残念ながら自分はまだ見たことがない。少なくともトップダウンだけで進めるといいのかと言うとそれも違うようだ。複数の部署(少なくともITチームとビジネスチーム)が連携する必要があり、店舗等を運営をしている場合は実際に人の動きも関わって初めて本番環境(という言い方が良いのか?この辺のうまい表現がわからない。)で実用化したと言えると思うので、道のりは長く険しいようだ。ということで、唐突だけどワークマンはすごいと思う。あとキユーピーさんもすごい(自分が前職の頃、プロジェクト初期の頃に少し関わったので手前味噌すぎるが)と思っている。さりとて、最初から一気に複数部署が「本気」で取り組むのも難しそう。本業の手を緩めることはできないので、どうしても主幹部署から参加しているプロジェクトメンバー以外の参画者は手弁当になってしまうことが多い用に思う。何だったら主幹部署のプロジェクトメンバーもフルコミットできていなことも多いような気がする。既存のビジネスがある中で人材のアサインは大変そうである。企業は内部で分断されている。

この手のプロジェクトに対する方法論は色々語られているようだが、ビジネス形態や組織のサイズ、文化や既存社員のスキルセットやマインドなど、各社本当に状況が千差万別で、今の所、普遍的な、いわゆる勝ちパターンはなさそうに思える。

自分の観測範囲では、プロジェクトの主要メンバーが一定以上のリテラシーを持っていることは少なくとも必要条件になりそうだ(当たり前か?)。一定とは何か?というのがまた定義が難しいのでここでは感覚値として、意思決定をする時に、複数の情報ソースを見比べた上で自社の状況を鑑みながら総合的に現時点で取りうるべき選択を下せるという感じだろうか。また、うまくいかない時のセカンドプランを想定しながら、ある程度リスクをとって進めていこうとするマインドも重要そうである。

もう一点重要そうな資質としては、ITチームとビジネスチームの双方と程よい距離感で連携できる人というのも挙げられる。結局、好奇心を持ってリスクを取りつつ、プロジェクトとしては落とし所を探りながら組織間の橋渡しをいい感じにデキる人がプロジェクトの中心にいることが重要そうだ。

というわけで、この手のプロジェクトは、人依存な要素が非常に強そうで、再現性や標準化を重んじる文化の中ではなかなかうまく行かなさそうな雰囲気がある。人依存ということで、必然的に選ぶツールやベンダーにはその人の好みが出る気がしていて、皮肉なことに客観性の象徴であるデータが肝となりそうなDXというキーワードには、主観によって進んで行くような気がしてならない今日このごろである。

ブラックボックスは嫌だ論

これもよく聞く話で、主張としては非常によく分かる。過去に痛い目も見てきたのだろう。が、大なり小なり使っているツールやサービスはブラックボックスが残るのは常かと思っている。そうでなければ全て自作になるため、無限にコストが掛かってしまうのでは、と思う。どの領域にはどの程度のブラックボックスが許容できるかの指針は持った方が良いかもしれない。特にSaaS系のツールを導入する時は、今後のアップデートが必ずしも自社にとって賛同しにくいケースも多いかもしれない。だが、一方で、恩恵も多く受けていることは忘れてはならないだろう。パッケージ慣れしている企業は、自社のワークフローに合うかの一点で減点評価してしまうが、加点すべき点は多くあるはずだと思う。

ここで書いた以外にも組織の話や、教育的な話などまだまだ言えそうなことはたくさんあるが、だんだん話がなまなましくなり過ぎそうでなのでここらで終える。AI/MLブームのときもそうだったが、DXに非連続的な何かを求めてはいるものの、既存のビジネスを抱えながら一足飛びに移行することは到底現実的ではなく、結局は連続的な変化をせざるを得ないため、現実的なステップ論でプランニングができるかが鍵だろうと思っている。既存のビジネスだけでなく、技術的な視点も持ち、世の中の変化も追いかけたちょっと未来に会社という大きな組織を動かしていかないといけないのは大変だろうと思う。

という感じで、DXというふわふわしたワードに対する所感を外から支援することが多い人間がふわふわとした感じでしたためてみた。生来の性で、これだけ関わっていると、外部からの支援だけではなく、中の人としてちょっと真面目に取り組んでみたいと思ったりする気持ちが芽生えてきたりこなかったりする。が、DXを推進する部がIT組織とビジネス組織の間で苦しんでいるのを見るとちょっと。。。という気持ちになる。中でやってる人はまた違う視点だろうけど。